サスティナビリティやSDGsが重要視される昨今、注目を浴びているのがアップサイクル。Instagramの「#upcycle」では、アップサイクルされた洋服や家具などが600万件以上投稿されています。
しかし、「アップサイクル」という言葉や意味は何となく理解しているものの、厳密な定義やリサイクルとの違いなどに関して、明確に答えられる方は少ないのではないでしょうか。
今回は、アップサイクルの歴史や注目されている背景、リサイクルやダウンサイクルとの違い、海外や日本の取組事例などを解説していきます。
■アップサイクルの定義とは? ※リサイクルとの違いなど

アップサイクルとは、廃棄物や不用品を利用して別の製品や素材に作り変えることを指します。単なる再利用ではなく、デザインやアイデアを加えて付加価値を与えるのが大きな特徴です。
詳しくは後述しますが、リサイクルやダウンサイクルに比べて、ゴミの削減や環境保護に貢献できる可能性があり、様々な製品やサービスが登場しています。
以下の項目からは、アップサイクルをより深く理解するために、歴史やリサイクルとの違い、メリットなどを見ていきましょう。
-アップサイクルの歴史
アップサイクルが初めて活字として登場したのは、1994年の「SalvoNEWS」の記事で、ライナー・ピルツの言葉が次のように引用されています。
「必要なのはアップサイクルです。古い製品の価値を下げるのではなくて、高めることです」
アップサイクル以前にも、同じような概念としては「クリエイティブリユース(創造的再利用)」が存在していました。クリエイティブリユースは20世紀の初頭から、アートやファッションデザインなどの分野で使われています。
たとえば、映画『風と共に去りぬ』では、ベルベットのカーテンから美しいドレスを仕立てるシーンがあります。これも立派なクリエイティブリユース(アップサイクル)だといえるでしょう。
他にも陶器などの割れやヒビを修復する「金継ぎ」もアップサイクルの一つです。傷跡を金属粉で装飾して壊れてしまった器などを蘇らせることで、修復前よりも価値や魅力が上がるケースもあります。このように、アップサイクルが登場する以前から、人々はアップサイクルを行ってきました。
21世紀の現在では、大量生産・大量消費がもたらした二酸化炭素の大量排出や、海洋プラスチックごみの増加による環境破壊が問題になっています。それに呼応するように、消費を続けるだけのライフスタイルに対して「このままで良いのか」と疑問を抱く人々が年々増え続けています。
その結果、個人・企業を問わず、より持続可能性が求められるようになり、サステナビリティを実現させる選択肢の一つとして、アップサイクルが再び注目され始めたのです。
-アップサイクルとリサイクルは何が違うのか
アップサイクルとリサイクルの大きな違いは「再利用する物の扱い方」です。
リサイクルは使用済みの物や製品を原材料に戻して再利用します。身近なところでは、古紙を原料に戻して再生紙にするのがリサイクルです。
一方アップサイクルは、不要になった服を分解してバッグを作ったり、寿命の切れた電球に手を加えて花瓶にしたりと、元の素材をそのまま活かすのが特徴です。
単純に再利用したり使い直したりするわけではなく「元の製品よりも価値を高めている」点は、アップサイクルを理解するうえで重要なポイントです。
またリサイクルは原料に戻す過程でエネルギーが必要ですが、アップサイクルは不要です。そのため、リサイクルよりも持続可能性が高い手法だといえます。
-アップサイクルとダウンサイクルとの違い
アップサイクルの対義語としては「ダウンサイクル」があります。
元の製品に付加価値を加えて、より高い価値を持たせるアップサイクルと違い、元の製品より価値が下がってしまうのがダウンサイクルです。
たとえば使い古したTシャツを雑巾にするなど、元々の価値よりも下げることをダウンサイクルと表現します。
簡潔に述べるならば、アップサイクルは「元の製品よりも価値を上げる」ダウンサイクルは「元の製品よりも価値が下がる」再利用方法です。
-リユースとリデュース
リサイクルやダウンサイクルに加えて、アップサイクルと混同されやすい言葉としては、リユースとリデュースが挙げられます。
リユースとは、一度使った製品をそのまま再利用することです。たとえば衣類をフリーマケットやオークションアプリを使って売るのはリユースになります。
リデュースとは、廃棄物の発生をできるだけ少なくする行動を指します。たとえば買い物時はマイバッグを使う、生活用品を選ぶときには簡易包装のものにするなどがリデュースです。
ちなみにリメイクも混同されがちですが、元の製品にアレンジを加えるといった点において、広義ではアップサイクルに近い意味合いがあります。
ですが、アップサイクルは「価値を上げる」のに対し、リメイクは必ずしも価値が上がるとは限りません。場合によっては価値が下がることもあります。よって厳密にはアップサイクルではないと考えてよいでしょう。
-アップサイクルのメリット
アップサイクルのメリットとしては、一つの物を長く使えたり、物の価値を上げられたりする以外にも、次のような項目が挙げられます。
・資源の採取や利用を抑えられる
・埋め立てゴミを削減できる
・二酸化炭素排出量を下げられる
アップサイクルは既に製品化された物を再利用するので、新たに資源を採取したり、加工したりする必要性がありません。そのため、資源の使用を抑えられます。
またプラスチックはリサイクルしたとしても、数回のダウンサイクルで最終的には埋立地に送られてしまいます。一方アップサイクルならば、廃棄プラスチックから新たな製品を作り、長く利用することが可能です。
加えて製品を大量生産する場合は、原材料の加工過程で二酸化炭素が排出されます。これはリサイクルの過程でも同様です。前にも述べたように、アップサイクルは既存の製品をアップグレードしますから、二酸化炭素の排出を抑えることができます。
■アップサイクルが注目される背景

アップサイクルが注目されている背景としては、日本が2000年頃より推進をはじめた循環型社会の形成の促進と、2015年に国連で採択されたSDGsの影響が少なくありません。
また、個人個人の大量生産・大量消費や廃棄物の問題、環境問題などへの意識変革が少しずつ起こっていることも理由の一つであると考えられます。
アップサイクルが注目されている背景には何があるのかを、以下で詳しく解説していきます。
-SDGsの目標達成
国レベルでは、SDGsの目標達成のためにアップサイクルの活用が注目されています。日本はSDGsを批准していますので、2030年までに17項目からなる目標を達成しなければなりません。
この目的のうち、目標12に掲げられた「持続可能な生産消費形態を確保する」は、特にアップサイクルに関わりの深い項目です。
目標12は11の項目に別れていて、12.5には「2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する」と記載されています。
アップサイクルは廃棄物の発生防止や削減に貢献できますし、再生利用及び再利用の観点からも重要であるといえるでしょう。
また続く12.6では、「特に大企業や多国籍企業などの企業に対し、持続可能な取り組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励する」と明記されています。
一個人だけでなく、製品を生産したり販売したりする企業も努力をしなければ、目標の達成は難しくなってしまいます。そのため、企業側にも持続可能性への協力が求められているのです。
出典:「持続可能な開発のための2030アジェンダ(仮訳)」(外務省)
-衣類の大量生産・大量消費・廃棄
衣類の大量生産は、環境に甚大な被害をもたらします。たとえば服を1着作るのには、CO2が約25.5キログラム排出され、約2,300リットルの水が消費されるそうです。
また日本で年間に可燃・不燃ごみに出される衣服の総重量は50万8,000トンで、そのうち95%の48万4,000トンは焼却・埋立されます。
このような環境負荷を抑えるためには、まず大量生産を止めなければいけません。大量生産がなくなれば大量に消費されることもなく、自然と廃棄も少なくなります。そのため、アップサイクルや3R(リデュース、リユース、リサイクル)などが重視されています。
出典:環境省ホームページ
-プラスチックごみの増加
海に漂う大量のペットボトルやレジ袋などのプラスチックごみは、今や世界的な問題だといっても過言ではありません。
このような海のゴミを「海洋ごみ」といいますが、そのなかでもプラスチックの割合は65.8%を占めています。
プラスチックごみを食べて死んでしまった海洋生物の例もありますし、5ミリメートル以下の「マイクロプラスチック」を体内に摂り入れた魚を食べる人間の健康への悪影響も計り知れません。
海洋ごみは分解されずに残り続けます。問題を解決するためには、リサイクルはもちろん、プラスチックごみで財布や靴を作るなど、再びゴミにならないように長期間利用できるアップサイクルも求められています。
https://uminohi.jp/kaiyougomi/
-家庭や工場、飲食店などの食品ロス
衣類だけでなく、食品ロスも深刻な問題です。日本人1人あたりの食品ロス量は1年で約41キログラムもあるそうです。
家庭から出る食品ロスを家庭系食品ロス、食品製造業者や飲食店などから出る食品ロスを事業者系食品ロスといいますが、前者は年間247万トンのロス。後者は275万トンにも及びます。
捨てられた食品は焼却されますが、その際には大量の二酸化炭素が発生します。そのため、普段は捨ててしまうような果物や野菜の皮などから、全く新しい食品を作るようなアップサイクルが必要とされているのです。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_4.html
■海外の事例

海外では様々なアップサイクルの試みが行われており、豊富な事例があります。
背景でも解説したとおり、世界的な問題になっているプラスチックごみ、食品ロス、廃棄衣類に関する問題に挑戦したアップサイクル事例をピックアップしてみました。
-Adidas
アディダスは、2010年代の初頭よりサスティナビリティに配慮した取り組みを行っています。
そのなかの一つが、海洋プラスチックごみをアップサイクルした素材「パーレイ・オーシャン・プラスチック」です。素材を使用した糸やリサイクルポリエステルを使用したフットウェアやポロシャツ、ショートパンツが販売されています。
プラスチックを使用しながらも、軽量で通気性に優れ、さらに撥水性をもたせるなど、アディダスの製品としてのクオリティはしっかりと保たれています。
「元の製品よりも価値を高める」アップサイクルの成功事例だといえるのではないでしょうか。
https://www.insider.com/companies-using-recycled-plastic-in-products#parley-x-adidas-1
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000695.000003301.html
-Doughp
アメリカのサンフランシスコにあるクッキードウ(生食できるクッキー生地)の専門店「Doughp」では、ビールの醸造過程で生じるビール粕をアップサイクルした菓子を販売しています。
ビール粕はパウダー状に加工されていて、小麦や全粒粉よりも糖質量をカットでき、プロテインや食物繊維の含有量が多いのも大きな特徴です。味はもちろん環境にも配慮していることから、今や全米に店舗を構えるまでに成長しています。
こちらもアディダスと同様に、「本来は廃棄されるはずの物」に価値を持たせてアップグレードした好事例ではないでしょうか。
https://eleminist.com/article/1325
-Archivist
Archivistはオランダ生まれのプロジェクトで、デザイナーや技術者などのプロフェッショナルが集まっています。
チームは高級ホテルで廃棄されるシーツに目をつけ、シャツにアップサイクルしています。ヨーロッパでは年間1万トンものシーツが廃棄されていて、少しだけ傷んでいるものも対象になってしまうそうです。
ホテルで使われているベッドリネンはもともと耐久性に優れ、また高品質の綿が使用されいることから、肌馴染みも一級品です。さらに、経年変化をした「白」も味わい深く、まさにアップサイクルの定義に合致した試みです。
https://www.archivist.studio/pages/about-us
■日本の取り組み状況

日本でも様々なアップサイクルの取り組みが行われています。
こちらも海外と同じく、プラスチックごみ・食品ロス・廃棄衣類のアップサイクルにフォーカスして、取組事例を見ていきましょう。
-一般社団法人アライアンス・フォー・ザ・ブルー
一般社団法人アライアンス・フォー・ザ・ブルーは、北海道のサケ・マス漁で使用された漁網(ぎょもう)を原料として鞄に生まれ変わらせるアップサイクルプロジェクトを行っています。
漁網は1〜2年で交換するため、多くの廃棄物が出てしまいます。漁網の原料は合成樹脂でできているものが多く、海洋ごみとしても多くの割合を占めているのが現状です。
そのような課題を解決するべく誕生した鞄はデザイン性に優れるだけでなく、永久保証も付けられています。長く使える点でも、アップサイクルの理に適っているプロジェクトです。
http://plastics-smart.env.go.jp/plasmaction_detail_alliance?view=1
-ハウス食品株式会社
大手食品メーカーのハウス食品は、スパイスの製造過程で生じてしまう製品にできない原料を、クレヨンとして製品化しています。
クレヨンにはシナモン・バジル・パプリカなどのスパイスの名がつけられていて、スパイス由来のため自然で抑えた上品な色合いが特徴的です。
アップサイクルの重要な要素である「アイデアを使い、付加価値を想像する」ことを体現しているアップサイクル事例だといえるでしょう。
https://housefoods-group.com/socialvalue/crayons.html
-株式会社ビームス
日本のセレクトショップの代表的存在であるビームスでは、商品としては店頭に出せないデッドストック品をトードバッグに作り変えるプロジェクトを行っています。
デニムや中綿ブルゾン、コート地やシャツなど様々な製品をアップサイクルし、販売しています。
トートの内側にはビームスのテーマカラーのオレンジを採用するなど、細かなデザインが行き届いているのも好印象です。デザインの力もまた、アップサイクルするための重要な要素です。
https://www.wwdjapan.com/articles/1276687
■アップサイクルについてのまとめ
今回はアップサイクルの歴史やなぜ注目されているのか、リサイクルやリユースとの違い、海外や日本の取組事例などを解説してきました。
アップサイクルでは、廃棄物や不用品を利用して別の製品や素材に作り変え、さらにアイデアやデザインの力で付加価値を与え「元の製品よりも高い価値」を生み出します。
「環境に配慮」というと大仰に聞こえてしまうかもしれません。しかし選択や創造を楽しみながら環境問題に貢献できるのであれば、これほど素晴らしいことありません。
何かを買う時にアップサイクル製品を選択するのも良いですし、自宅で抽出した後のコーヒーを消臭剤にしたり、空き瓶を電球に被せてランタン調にしたりするなど、気軽なアップサイクルにチャレンジしてみるのもおすすめです。
【全体としての参照・参考リンク】
https://www.revibe-upcycling.com/blog/case-studies/the-evolution-and-history-of-upcycling
https://brightly.eco/blog/upcycling-meaning